Diabetes 糖尿病の薬物療法

糖尿病の薬物療法

2型糖尿病を中心に

食事療法・運動療法を2~3か月間行っても良好なコントロールが得られない場合(一般的にはHbA1cが7%以上であれば)、
内服薬や注射薬による治療が必要となります。

どの薬剤を選ぶかは患者さんの生活様式や年齢、合併症や肥満の程度、 インスリン分泌不全やインスリン抵抗性といった作用不足の程度によって変わってきます。 そしてそれぞれの患者さんが目標とする血糖値やHbA1cを判断して、内服薬か注射薬あるいはその両方を選び治療します。

1型糖尿病や妊娠に伴う糖尿病、重篤な感染症、全身管理が必要な手術を受ける時などはインスリン療法が必要であり、内服薬による治療は行われません。
内服薬はその作用から6種類に分けられ、患者さんの病態に合わせて単剤で、または複数の薬剤や注射薬と併用して使われます。

治療薬の種類と特徴

商品名とカッコ内は一般名を記載しました。

GLP-1受容体作動薬

  • ビクトーザ®(リラグルチド)
  • バイエッタ®(エキセナチド)
  • ビデュリオン®(エキセナチド)
  • リキスミア®(リキシセナチド)
  • トルリシティ®(デュラグルチド)
  • オゼンピック®︎(セマグルチド)
  • ゾルトファイ®︎(インスリンデグルデク・リラグルチド配合注射液)
  • マンジャロ®️

GLP-1受容体作動薬は内服薬のDPP-4阻害薬とともに「インクレチン関連薬」といわれている薬剤です。
食事中の栄養素が胃から小腸に到達すると、GLP-1(グルカゴン様ペプチド1)などのホルモンが分泌され、膵臓からのインスリン分泌が促進されます。
膵臓のβ細胞にはGLP-1に対するカギ穴である受容体が存在します。
GLP-1受容体作動薬は体内のGLP-1と同じようにβ細胞の受容体に作用して、インスリン分泌を促進させて血糖値を低下させます。

血糖値を下げる効果とともに期待できる効果として、患者さんそれぞれに個人差があるものの体重の減少効果があります。
単剤で用いた場合は、低血糖のリスクはほとんどありませんがSU薬と併用した場合は低血糖が起こることがあるため注意が必要です。
副作用として嘔気や下痢、便秘などの症状がみられることがあります。

マンジャロ®️はGLP -1だけでなく仲間のホルモンのGIPも配合された薬剤です。

DPP4阻害薬

  • ジャヌビア®、グラクティブ®(いずれもシタグリプチン)
  • エクア®(ビルダグリプチン)
  • ネシーナ®(アログリプチン)
  • トラゼンタ®(リナグリプチン)
  • テネリア®(テネリグリプチン)
  • スイニー®(アナグリプチン)
  • オングリザ®(サキサグリプチン)

食事中の栄養素が胃から小腸に到達するとインクレチンというホルモンが分泌され、 膵臓からのインスリンの分泌を促進させます。
インクレチンはすぐにDPP-4という酵素によって分解されてしまいますが、 DPP4阻害薬は、この酵素の働きを抑えてインクレチンを分解させにくくさせ、 その作用を高めて食後の血糖値が改善します。

インスリンの分泌を促す薬剤ですが、インクレチンは食後の血糖上昇に伴い分泌されるため、 単独の服用では低血糖を起こす危険は低いことが特徴です。 ただしインスリンの分泌を強めるSU薬と併用した場合は、 稀に重篤な低血糖が生じるリスクがあるため注意が必要です。

SGLT2阻害薬

  • ジャディアンス®(エンパグリフロジン)
  • フォシーガ®(ダパグリフロジン)
  • カナグル®(カナグリフロジン)
  • スーグラ®(イプラグリフロジン)
  • ルセフィ®(ルセオフリグロジン)
  • デベルザ®・アプルウェイ®(トホグリフロジン)

この薬は腎臓に作用し、尿の中の糖分の排泄を促進することで、血糖を下げる作用を持つ薬剤です。
1日に60~100gの糖分を排泄するといわれ、体重の減少効果も期待されています。

また近年の大規模な臨床試験で、心筋梗塞や狭心症の既往がある患者さんの死亡率や心不全の発症率を減らしたり、 糖尿病性腎症の患者さんの腎機能の悪化を防いだりといった、血糖値を下げる作用とは別の作用が注目されています。

副作用として尿路や陰部の感染症や、利尿作用に伴う頻尿、多尿などが知られています。
脱水の予防が大事なため十分な水分補給と体調不良時の服薬の中止が必要です。

ビグアナイド薬

  • メトグルコ®
  • グリコラン®など(いずれもメトホルミン)
  • ジベトス®
  • ジベトンS®(ブホルミン)

この薬は体内のブドウ糖を貯蔵する役割を果たす肝臓から、放出されるブドウ糖の量を少なくしたり、 筋肉などを中心とした末梢組織でインスリンが働きやすいようにすることで血糖値が高くなるのを防ぎます。
体重増加が起こりにくく、わずかながら中性脂肪やLDL(=悪玉)コレステロールを下げる働きもあることが知られています。
合併症の発症を抑える研究データが豊富であり、経済性にも優れるため欧米では第一に使用される薬として、推奨されています。

インスリンの分泌は促進させないため、低血糖の心配はありませんが、SU薬と併用すると低血糖を起こす可能性があります。
副作用として乳酸アシドーシスという重篤な合併症を起こすことが以前に問題となりましたが非常にまれで、現在では安全性が高い薬剤と考えられています。
ほかには胃腸障害などが知られています。

αグルコシダーゼ阻害薬

  • ベイスン®(ボグリボース)
  • グルコバイ®(アカルボース)
  • セイブル®(ミグリトール)

この薬は腸での炭水化物がブドウ糖へ分解される過程を抑えます。
その結果、ブドウ糖の腸への吸収がゆっくりとなり、食後の急激な血糖上昇が抑えられます。

この薬だけでのHbA1cや空腹時の血糖値の改善効果は他の薬剤に比べて大きくありませんが、 他の薬剤の効果を強めることもあるため、ほかの薬剤との併用に適しています。

この薬を飲み始めると、お腹が張ったり、放屁(おなら)や下痢が多くなりますが、服用を続けることで徐々に少なくなります。
また食後の血糖上昇を防ぐため、一般的には毎食直前の服用が必要となります。

この薬を飲んでいる患者さんが低血糖になると砂糖(ショ糖)を摂っても吸収がゆるやかなため、 なかなか低血糖が改善しない場合があります。低血糖の時には必ずブドウ糖を飲みましょう。

チアゾリジン薬

  • アクトス®(ピオグリタゾン)

この薬は脂肪の細胞に作用して、筋肉や肝臓などのインスリンが働く組織に脂肪が蓄積されるのを防ぎ、インスリンの感受性を高めて血糖値を低下させます。
脂肪細胞に作用して、肥満やインスリン抵抗性が強い場合に血糖値の改善効果が強いことが知られています。

脂肪肝や脂質異常症を改善させることがあり、とりわけHDL(=善玉)コレステロールの上昇作用も認められます。
副作用として身体の水分を貯留させる作用があるため、むくみと体重の増加が認められることがあります。

速効型インスリン分泌促進薬

  • ファスティック®、スターシス®(いずれもナテグリニド)
  • グルファスト®(ミチグリニド)
  • シュアポスト®(レパグリニド)

SU薬と同様に膵臓のβ細胞を刺激してインスリン分泌を促進させますが、効果がより速やかで短時間で消失するのが特徴です。
SU薬が食事に関係なく1日1回の服用で、インスリンの分泌を持続的に強めるのに対して、この薬は作用時間が短いため、 1日3回の毎食直前の服用で食後高血糖を改善させるのに用いられます。

比較的インスリン分泌不全が強くない軽症のひとが適応と考えられています。
この薬剤で食後高血糖の改善が不十分であればαグルコシダーゼ阻害薬との併用を考慮します。

副作用として低血糖がありますが、服用方法(食事の直前)をまちがえなければ、SU薬にくらべて頻度ははるかに少ないと考えられています。

スルホニル尿素(SU)薬

  • アマリール®(グリメピリド)
  • グリミクロン®(グリクラジド)
  • オイグルコン®、ダオニール®(いずれもグリベンクラミド)

など

この薬は膵臓のβ細胞に作用してインスリンの分泌を促進させます。
長年にわたり臨床の現場で使われており、その血糖を下げる作用により細小血管障害(神経障害や網膜症、腎症など)を抑制する臨床データが豊富です。

糖尿病と診断されたばかりのひとやインスリンの治療歴がないひとには効きやすいことが知られていますが、 一般的にインスリン分泌不全がなくインスリン抵抗性がつよいことが疑われる肥満のひとには効果がでにくいことがわかっています。

また長期間使用を続けると、血糖値が次第に上昇してくることがあり「二次無効」といわれています。

インスリンの分泌を持続的に高めるため、副作用として内服薬の中で特に低血糖を起こしやすく、高齢者や腎機能が低下しているひとには注意が必要です。
また食事の量が不適切に多いままに内服を続けると体重増加を起こす頻度が多いことも知られています。

インスリン

内服薬の治療のほかに注射薬の治療があります。
代表的な注射薬はインスリンであり、1921年のインスリンの発見と同時に、糖尿病の治療薬の中ではもっとも長い歴史があります。

インスリン以外の注射薬として、小腸から分泌されるホルモンである、GLP-1というインクレチンを薬剤にしたGLP-1受容体作動薬があります。

どんなときにインスリン療法が必要か

インスリン療法の適応には絶対的適応相対的適応の二つがあります。
絶対的適応はインスリン療法以外で血糖値のコントロールができない場合を指します。
相対的適応は内服薬のみでは血糖値のコントロールを保てない場合あるいは保つ可能性が少ない場合を指します。

絶対的適応
  • 1型糖尿病
  • 糖尿病性昏睡(糖尿病性ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖症候群)
  • 重症感染症の併発
  • 全身麻酔を行うなどの中等度以上の外科手術
  • 糖尿病合併妊娠・妊娠糖尿病で血糖コントロール不良例
相対的適応
  • 著しい高血糖(空腹時血糖250㎎/dl以上、随時血糖350㎎/dl以上)を認める場合やケトーシス(尿ケトン陽性など)を認める場合
  • 内服薬では良好な血糖コントロールが得られない場合(SU薬の1次無効、2次無効など) 重度の肝障害や腎障害を有する例

一般的には2型糖尿病のひとで内服薬を使用しても血糖値が下がらない場合はインスリン療法が行われます。

ただし内服薬を使用する前でも体重減少が強い場合、尿のケトン体が陽性の場合、口渇や多飲、多尿などが強い場合などはインスリン作用不足が強いと考えられ、 内服薬による改善が期待できない点と、糖毒性が強い状態(高血糖自体によりインスリンの分泌が低下している状態)では 膵臓のβ細胞の疲弊を改善できない点から、インスリン療法を行います。

外因性のインスリンを補充することで内因性のインスリンを過剰に分泌する必要がなくなり、疲弊したβ細胞がインスリンを分泌するちからを温存させることができます。

内服薬、注射薬どちらを用いるにしてもインスリン分泌能が保たれているほうが、血糖値をより良く保つことが容易になるため、
糖尿病のコントロールが悪いときに一時的にでもインスリン注射を用いて膵臓の疲弊を防ぐことは有用です。

どのようなインスリン注射を行うのか

インスリン注射の種類

各種のインスリンの作用のイメージ

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インスリン注射は、食事をとるごとにでるインスリンを補う役割をする追加インスリン製剤と、 食事に関係なくでて高血糖になるのを防ぐ役割をする基礎インスリン製剤、 その二つが混ざった混合型インスリン製剤の大きく3種類に分けられます。

追加インスリン製剤には、速効型インスリンと超速効型インスリンが用いられ、基礎インスリン製剤には、 中間型インスリンと持効型インスリンが用いられています。 混合型インスリン製剤は、追加インスリンと基礎インスリンが混ざったもので、その比率の異なるものがあります。

患者さんにあったものを選択します

理想の薬物治療とは、血糖値を正常に保てるための十分な追加インスリンと基礎インスリンが補充されている状態を指します。
患者さんの空腹時や食後の高血糖の程度やライフスタイルなどにあわせて患者さんにあったものを選択します。

最近では、内服薬で食後の高血糖を治療できる薬剤の種類が増えたため、1日1回の持効型インスリン注射と内服薬を活用して、 少ない注射回数で良好な血糖コントロールを保つことも可能となってきています。

ただし2型糖尿病であっても内因性のインスリン分泌能が著しく減少している場合には、 3回の追加インスリンと1~2回の基礎インスリンを注射する強化インスリン療法が行われることもあります。

混合型インスリン2回法の作用のイメージ

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中間型+即効性インスリンの作用イメージ

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持効型+超速攻型インスリンの作用イメージ

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どのように注射するか

市販されているインスリン

市販されているインスリンは、作用時間ごとに色分けされています。

ペン型の注射器には3.0mlのインスリンが入っています。薬液1mlあたり100単位のインスリンが含まれています。
インスリンは遺伝子工学の手法でつくられたヒト型インスリンが使われ、健康なひとのインスリンと同じ構造です。
ただし超速効型および持効型インスリンはヒト型インスリンの構造を一部変えることで、作用時間を早くしたり延長させたりしています。

注射方法

注射はおもにお腹と太ももの皮下に行います。
患者さんによっては注射する部位によって効き方が異なることがあり、注射する部位はあまり変えないようにします。
ペン型の注射器の場合には、使い捨ての専用の針をつけて、ダイヤルの目盛りであらかじめ決められたインスリンの量を設定して注射します。
インスリンの注射で用いられる針は太さが約0.2mmと採血などで使われる針よりもはるかに細いため、痛みはほとんどありません。

インスリンの種類

インスリン製剤1

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インスリン製剤2

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